「お前の席ねぇから」
一度聞いたら忘れない。そんな印象的なこのセリフ。
おそらく今、この記事を読んでくれている読者の皆さんは一度は目にしたことがあるであろう。
しかし、このセリフ。その元ネタを知っているという人はどれくらいいるだろうか?
そしてさらに言うなら、某ドラマの切り抜き画像で有名なこのセリフだが、
その元ネタが漫画であるということを知っている人は…?
今回はそんなセリフの元ネタである漫画、『ライフ』を読んでみたのだが、筆者は、その内容にどハマリしてしてまい思わず一気読みしてしまった…(全20巻もあるのにページをめくる手が止まらず、気が付いたら最終巻の最後のページに到達していたという…恐るべし)、そんな勢いのままに本作の魅力を書き綴っていこうというわけだ。
正直、こんなに一気見したのはネトフリの『全裸監督』以来である。
それでは早速紹介を、と行きたいところだが、その前に、
「お前の席ねぇから」の元ネタが知りたくてこのページに辿り着いた方々のために、
元ネタとなったシーンが本作の第何巻の第何話に登場するのかを先に書いておく。
ネタバレになるから知りたくないという方は、ここの部分はさらっと読み飛ばしてもらってかまわない。
元ネタは何話に登場する?
「お前の席ねぇから」のセリフは、原作漫画『ライフ』の第5巻収録の19話に登場する。
そして、そこではこのシーンのセリフは厳密にはドラマ版と少し違っていて、正確には「あんたの席ないから」となっている。
つまり、「お前(おめぇ)」の部分が原作では「あんた」となっている。
本作の魅力
それでは少し前置きが長くなってしまったが、ここからはそんな本作の魅力を紹介していこうと思う。
念の為、ネタバレには配慮して書いているので未読の方も安心して大丈夫だ。
それでは、はじめよう。
ただのいじめ系では終わらない凄さ
いじめを描いた漫画といえば最近だと、アニメ化も決定した『タコピーの原罪』や、それより少し前だと漫画アプリのマガポケで連載されていた『いじめるヤバイ奴』だったり、あるいは少しひねりを加えた、イジメの要素と復讐の要素を組み合わせた『小悪魔教師サイコ』(合田蛍冬版がおすすめ)なんてものもあったりで、
いまや一大ジャンルとして確立しつつある。
だがしかし、いじめを描いた漫画は数あれど、単に壮絶なイジメを描いただけだったり、その復讐を描いただけだと、よくある漫画で終わってしまうのだが、本作の凄いところはそれだけでは終わらせないことだと思う。
単に読み終わってみて、「漫画として面白かった」、「一気読みしちゃった」では終わらず、
読み終わったあとに何か心に残るものがある。あるいは読者に何か考えさせられるものがある。
本作『ライフ』はまさにそんな作品だった。
かすかな希望がページをめくる手を止まらせない
正直なところ、筆者はこういう、いじめを題材とした作品などのいわゆる鬱系に分類されるような作品はあまり得意ではない。
特に本作の序盤の壮絶ないじめの描写や学校内のドロドロとした人間関係の描写は思わず目を背けたくなるほどで、読んでいてつらいものがあった。
しかし、それでも途中で投げ出さずに最後まで読み続けることができたのは、
この絶望的な展開がずっと続くのか…と思っていると、そのたびにほのかに希望の光が見えかけたからというのがある。
具体的には、「もしかしたら…もうすこししたら事態が好転するかもしれない…」そんな感情をたびたび引き起こされ、グイグイとその求心力によって気づいたら、最終話まで辿り着いていたという感じだった。
作者のその絶望と希望のさじ加減は本当に絶妙だと思う。
爽やかなラスト
しかも、序盤に先程も書いたような壮絶で思わず目を背けたくなるような展開が続くことからは想像もつかないほど、ラストは爽やかできれいな終わり方で、読後感も悪くない。
毅然と立ち向かう姿はやっぱりカッコいい
教室内でいじめが起こっていたとして、正直なところ、多くの人は見てみぬ素振りをするのが大半だと思う。多分、これを書いている筆者も正直言ってそうだと思う…。
なぜなら、下手に声を上げると、こんどは自分が標的になってしまうかもしれないから。
だからといって、声を上げずに見てみぬ素振りをしていることが明確に悪だと言いたいわけでなない。
本作でもこれでもかというくらい執拗に描かれていることだが、教室内で起こるいじめと、それを取り巻く集団力学というのは本当に一筋縄ではいかないものがある。
教師が介入して余計に事態がこじれることもある。それくらいに、教室内の力関係や利害関係はとてもややこしい。
「いじめは良くないことだ」。それは多くの人が同意するだろうけれど、
では、そうは言ってもいざ自分の通っている学校のしかも自分のクラス内で、それが起こっていたとしたら…。果たして、自分はいじめられているその人に手を差し伸べてあげることができるだろうか…?
下手したら自分が標的になってしまうかもしれない中で、しかも、それだけてはなく自分が関わったせいで、事態を余計にややこしくして悪化させてしまう恐れのある中で、状況を変えようと行動に移せる人がどれほどいるのだろうかと…。
本作を読みながら、そんなことを考えずにはいられなかった。
そんな教室内で起こっているいじめに対して、屈せず、そして毅然とした姿で立ち向かっていく本作の登場人物たちの姿にはとてもしびれたし、見ていて素直にカッコいいと思った。
いやたしかに、主人公がメンタル鬼強すぎるという意見もあるかもしれないが…、それでも、そんな主人公たちの姿にとても勇気をもらえたのは確かだ。
忖度なしで自分の素直な気持ちを伝える大切さ
私たちは、小学生から中学生、そして高校生へと段々と大人になっていくにつれて、いつしか人に気を遣うということを覚えていく。
本音と建前を使い分けたり、社交辞令で心にも無いことを言ってみたりetc…。
人から嫌われたくない、衝突したくない、できれば面倒ごとは避けたい…。
それは悪いことかというと別にそうではなくて、多分、大人になるということはそういったもろもろのことを含んでいるんだと思う。
だけど、そんな日々を送っていくうちに、私たちはいつしか、
自分が本当に心で思っていることと向き合って、それを衝突を恐れずに相手にぶつけるといったことをしなくなっていく。
「子供は正直だ」と言われることもあるけれど、それは裏を返すと、大人が正直さを失ってしまったからとも言える。
(まぁ、現実には、会社で正直に思いをぶつけるなんてことをやったら場合によっちゃ、即刻クビみたいなことに、なりかねないかもしれないけどね…^^)
日々相手に対して思っていることや、心の中のもやもやを「オトナ気ない」だとか「大人なんだから」と言って誤魔化すこともできるけれど、
時には恐れずに正直に「相手に面と向かって伝えてみる」「本気でぶつかってみる」。そうすることで、何か変わることもあるのかもしれない。本作を読みながら、そんなことを思った。
よく漫画やアニメなんかで、親友同士が喧嘩してお互いボコボコに殴り合ったあとに、お互いの顔を見て笑い合うみたいなシーンがあって、筆者はグッときたりするのだけど、大人になるにつれ、こういうお互い本気でぶつかり合うということがなくなっていくよなぁとしみじみ思った。
兄弟や姉妹のいる人だったら、大きくなるにつれて喧嘩が減っていったりね。
本作を読んで、何か人として生きていくうえでとても大切なことを学ばせてもらった気がした。
おわりに
今回の漫画『ライフ』の作者である、すえのぶけいこさんの作品を読むのは本作が初めてで、いつもなら初めて作者の作品で面白いと感じた時は、面白かったので作者の他の作品も読んでみたいと書くところなのだけど、
今回に限ってはもうこれだけでお腹いっぱい…。
例えるなら、アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュR2』のゼロレクイエムを見終わって、しばらくその余韻に浸っていたいみたいな感じと言おうか…(わからない人には全然わからない微妙な例えですまん…)。
それくらい本作は色々詰まっている作品で、もうしばらくは何も読みたくない(良い意味で)…と思った。