とてもよく練られた1話だと思った。

一見、普通に見ているとただの面白い1話なのだけど、よくよく注意して分析してみると、ひとつひとつのシーンのつながりが非常に良く考えられているなと思った。

筆者が気になったのは、以下のシーン同士のつながりと、対比構造についてだ。

◆シーン同士のつながり

・「切れる」と「断ち切る」

◆対比構造

・「つながる」と「切る」
・「切る」と「つながる」
・「忘れる」と「思い出す」
・「上京」と「帰郷」

それぞれ詳しく見ていく。

シーン同士のつながり

「切れる」と「断ち切る」

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話

まず、1話の冒頭に以下のシーンが出てくる。

ストーリーの流れ

1.東京についてから乗った電車の中で、主人公が決意を固めた様子で電車の窓から外を眺めながら「17歳。3月─。私は東京に来た 負けたくないから 間違ってないから」というシーン。

2.その直後、電車の外に降っていた雪がキラキラと日差しに反射しているのに気がついた主人公はその写真を撮ろうとして、スマホを取り出すが、すでに充電が1%に満たずに、スマホの電源が切れる。

このシーンの一連の流れは、「17歳。3月─。私は東京に来た 負けたくないから 間違ってないから」というシーンと、そのすぐ後のスマホの電源が「切れる」というシーンとのリンク(関連や結びつき)を表していると思う。

つまり、主人公が家族や親戚との関係を「断ち切る」思いで東京に来たという「決心」を、
その直後に、スマホの電源が「切れる」というシーンを持ってくることで、
強調していると読み取れる。

冒頭のこの「断ち切る決心→電源が切れる」という流れは、1話のこの後の展開に活きてくる。

対比構造

「つながる」と「切る」

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話
ストーリーの流れ

1.電車を降りた主人公は、いったん自分の住むことになるアパートへと向かうが、鍵がないため入ることができずに、
その後、喫茶店へ向かいスマホを充電する。

2.電源が切れていたスマホに充電が貯まり、スマホの画面が表示される。すると、そこには、家族からの大量の電話の着信とメッセージが。「ですよね…。」とため息をついた直後、家族からの電話が、「つながる」。家族「あっ、やっと出た…」。

3.家族からの電話で、心配事をあれこれ言われた主人公は「ごめん、電池ないから…」と電話を「切る」。

ここでも、家族からの電話が「つながる」。そして、主人公がそれを自ら「切る」という対比が読み取れる。

さきほど書いた、冒頭の電車のシーンでの家族や親戚とのつながりを「断ち切る」決心と、スマホの電源が「切れる」というシーン流れが、ここに活きてくる。

つまり、冒頭でスマホの電源が「切れる」というシーンを描き、
その後に電源が「復活」。そして、家族からの電話が「つながる」。その電話を自ら「切る」という流れができている。

流れを整理すると、

電源が切れる→復活→電話がつながる→切る

この一連の流れを描くことで、
主人公が東京にやって来た「理由」を視聴者に印象づけるとともに、想像をかきたてる役割をになっていると考えられる。

「切る」と「つながる」

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話
ストーリーの流れ

1.家族からの電話を「ごめん、電池ないから…」と切り、早々に切り上げた主人公は、大きなため息をつき、意気消沈した様子で喫茶店の机に顔を突っ伏す。

2.机に顔を突っ伏しながら、耳にイヤホンを指し、音楽を聴きながら、ダラダラとSNSを眺めていたが…「えっ、すぐ近くだ」。

3.「…っ、22時、うそ!?」。主人公の大好きなバンドのメンバーのひとりがライブをやるという告知を見つける。

4.急いでそのライブの場所へと向かう主人公。その後、そのライブをきっかけに、主人公の大ファンであるそのバンドメンバーのモモカさんと行動を共にすることになる。

ここでは、家族からの電話を「切る」というシーンの後に、対照的なモモカさんと出会うという「つながる」シーンを描くことで、この2つが対比されて、印象的なシーンとなっている。

「忘れる」と「思い出す」

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話
ストーリーの流れ

1.ライブの後、モモカさんと一緒に牛丼屋で牛丼を食べることになった主人公。

2.牛丼屋でモモカさんと話すうち、終電の時間が近づいてくる。しかし、主人公には泊まる場所がない…。そこでモモカさんはそんな主人公をみかねて「いくよ」と声をかけてくれる。

3.主人公は、モモカさんの住んでいるシェアハウスにあげてもらうことに。

4.そこでは、モモカさんは主人公に温かいコーヒーをいれてくれる。
モモカさんと談笑に興じる主人公。
しかし、モモカさんの言ったなにげない一言主人公はカチンときてしまう。

5.モモカさん「なんだ、楽勝じゃん」…
主人公「それだけで、私の何が分かるんですか…。勝手に楽勝なんて…っ。決めつけないでくださいっ…!」

6.怒りに身を任せて、モモカさんの部屋から外へ出ていく主人公。しかし、自身のスマホを忘れていってしまう。

7.モモカさんは主人公を追いかける。
そして、主人公に歩道橋の上で追いつく。
モモカさん「待てよっ…!」。歩道橋の上で、落ち込んでいた主人公はモモカさんを見てハッとする。

8.モモカさん「ごめん、悪かった この歳で高校辞めて…こっちに出て来たんだもんな…。」そして、ふっと遠くを見るような目をしたあと「楽勝なわけないよな…。」とつぶやく。

まず、モモカさんの「なんだ、楽勝じゃん」…という言葉に対し、
主人公が「それだけで、私の何が分かるんですか…。勝手に楽勝なんて…っ。決めつけないでくださいっ…!」と怒り、出ていってしまうシーンの直後に、
主人公が忘れていったスマホが映し出されるシーンがある。

このシーンは、
モモカさんが自分も主人公と同じ17歳の時、上京してきて、そのときに決して「楽勝」なんかではなかったことを「忘れていた」ことを象徴しているのではないかと思う。

つまり、昔を「忘れる」スマホを「忘れる」。

その後、モモカさんは、主人公にスマホを届け、「ごめん、悪かった」と謝る。
そして、ふっと遠くを見るような目をしたあと「楽勝なわけないよな…。」とつぶやくシーンがある。

この時モモカさんは、自分が今の主人公と同じ上京したてだった頃に思いを馳せていた、言い換えると「思い出していた」のだと思う。

つまり、ここでは、主人公がスマホを「忘れる」というシーンと、モモカさんが昔の自分を「思い出す」というシーンの対比が見てとれる。

そして、スマホを「忘れる」シーンは、モモカさんが「昔を忘れていたこと」を象徴しているのではないかということは先ほど書いた。

流れをまとめると、

スマホを忘れる

「スマホを忘れる」は同時に昔を忘れていたことを象徴している

その後、「昔」を思い出す

このように「忘れる」シーンの直後に、「思い出す」シーンを持ってくることで、コントラストが働き、物語の展開が、よりドラマティックになっていると思う。

「上京」と「帰郷」交差する2人の人生

この第1話は、全体をとおして「上京してきた少女」「帰郷する少女」対比を描いていると思う。

もちろん、「上京してきた少女」は主人公で、「帰郷する少女」はモモカさんだ。

この対比は、冒頭の主人公とモモカさんが出会ったばかりのシーンの時点で既にそれとなく示されていると考えられる。

それは以下のシーンだ。

10分10秒頃に、主人公と出会ったばかりのモモカさんが、歩道橋の上で、主人公に向かって「なまえは?」とたずねる。それに対して主人公が「井芹仁菜です」と名乗るシーンがある。

注目して欲しいのは、このシーンの背景の部分だ。以下に画像を示す。

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話
©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話

モモカさんの背景には、ネオン色に光る、赤とオレンジ色の銅線の束のようなウネウネ流れているのが見える。

それに対して、主人公の背景には今度は、青を基調としたウネウネ流れている。

重要なのは、このウネウネの流れの「方向」で、

モモカさんの背景のウネウネは、手前から奥へ向かって主人公の背景のウネウネは奥から手前側に向かって流れている。

そして、この流れは、実際の「車の流れの方向と一致」している。

これだけだと、別に大したことなくね?と思われるかもしれない。

しかし、この名乗りシーンの直後、引きで全体を映した以下の画像に示すシーンが映し出される。

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話

まるで、このウネウネの流れを印象づけるかのようだ。

つまり、このシーンのウネウネは夢をあきらめて「帰郷する少女」と、負けたくなくて「上京してきた少女」を車の流れに例えることで「象徴」しているのではないかと思う。

そして、それだけではなく、この歩道橋という車の流れが交わる場所で、そのような対称的な2人の人生が「交わる」ことも表していると思う。

この歩道橋のモチーフは、1話の中でもう一度登場する。

それは先ほど、「忘れると思い出す」のところであらすじを詳しく書いたが、17:14頃に出てくる以下の画像に示すシーンの部分だ。

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話

この2度目の歩道橋のシーンは、
モモカさんは、「楽勝なわけないよな…。」と過去の自分に思いをはせ、

そして主人公が、なぜ東京に出てきたのかを語るシーンでもある。

ここでも2人の人生がクロスしていることが読み取れる。

つまり、モモカさんは「楽勝なわけないよな…。」と主人公と同じ17歳の頃に東京へと出てきた「過去」の自分へと思いをはせ、それに対して、主人公なぜ東京へ出てきたのかという「現在」の自分を語る。

モモカさんの「過去」と、主人公の「現在」が、歩道橋という車の流れの交わる場所で交差している。

そして、ここでも先程書いた出会いのシーンと同じように、引きで歩道橋と車の流れを映したシーンが出てくる。

©東映アニメーション/ガールズバンドクライ第1話

歩道橋は、「車の流れ」が交わる地点であり、「来る者と帰る者」が交わる地点、そして、「それぞれの人生」が交差する地点でもある。

おそらく製作者は、この歩道橋という場所に、そういった特別な意味を込めたのではないかと筆者は思う。

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