※ネタバレ注意
 
米澤穂信「本と鍵の季節」を読み終えたので感想を書いていきます。
アニメ版の「氷菓」を見ていたので、著者の名前は知っていましたが、実際に本を読むのは初めてでした。

あらすじ

堀川次郎、高校二年で図書委員。不人気な図書室で同じ委員会の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、本には縁がなさそうだったが、話してみると快活でよく笑い、ほどよく皮肉屋のいいやつだ。彼と付き合うようになってから、なぜかおかしなことに関わることが増えた。開かずの金庫、テスト問題の窃盗、亡くなった先輩が読んだ最後の本──青春図書室ミステリー開幕!!

引用:本と鍵の季節/米澤 穂信 | 集英社の本 公式

 

主人公の堀川次郎と、その友人で同じ図書委員の松倉詩門による日常系ミステリーです。

面白いと思った点

面白いと思った点は以下です。
 
・登場人物の雰囲気が氷菓っぽい
・考えさせられる話があった
・最後の2作が続き物になっていてめちゃ面白かった
 
順番に見ていきます。
登場人物の雰囲気が氷菓っぽい
読んでいて、登場人物の雰囲気が氷菓と似ているなと思いました。まぁ、同じ作者なので当たり前といえばそうなんですが。
 
本作品の中心となる登場人物は2人いて、主人公の堀川次郎と、その友人の松倉詩門です。
二人とも、あまり勉強熱心ではないけど、学校の成績はそこそこ良いといったタイプです。
作中の二人の会話を読んでいても、二人の頭の回転の速さがわかります。
 
これは完全なる私事ですが、自分は中高時代、勉強もせず、成績も悪かったので、そんな作中の二人に少々嫉妬心を覚えましたw
あまり勉強しなくても、成績がそこそこ良い(実際にいるのかはわかりませんが)というは憧れます。
 
話を戻します。
本作の登場人物の中で主人公格のふたり以外で、結構好きだなと思ったキャラは植田登(うえだのぼる)というキャラです。
 
以下の描写が気に入りました。
 
図書室にはもう一人いる。植田登、一年生の図書委員だ。レンズの小さな眼鏡をかけていて、委員会のどんな雑用でもにこにこと笑ってこなすが、反面やけに押しが強いところもある。その植田がいつもの笑顔で、しかしあきれ声を上げた。
「先輩たち、いつもそんな下らないことを言いながら作業してるんですか」
引用:米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社文庫)p124

 

「どんな雑用でもにこにこと笑ってこなすが、反面やけに押しが強いところもある。」という設定が魅力的だなと思いました。
考えさせられる話があった
本作の中に「ない本」という短編があります。
簡単にあらすじを説明すると、
ある日、主人公は「死んだ同級生の最後に読んでいた本を探してほしい」という依頼を持ちかけられる。
そして、その本を探すことになるのだが…。
という感じです。
 
このお話は、普通のミステリーとはちょっと違った視点の心理が描かれていて、新たな気づきを得られた短編でした。
 
いわゆるミステリー小説では、探偵がその優れた頭脳と推理力を駆使して、トリックをあばいていく過程が描かれる訳ですが、
事件を起こした悪い犯人をあばくといった、探偵側の視点で描かれていることが多いです。
そのすぐれた推理の負の側面はあまり描かれていません。
 
この作品では、そんな推理の負の側面が描かれていて、なんでも推理して真実を明るみにするというのは、良い事ばかりでもないんだなと思いました。
ある人にとっては、知られたくないこともあるだろうし。
まあ、推理で導き出された答えが必ずしも真実であるとは限りませんが。
最後の2作が続き物になっていてめちゃ面白かった
本作は、一つ一つの話は短編だけど、時間軸はつながっているといった連作短篇集という形式をとっています。
 
最後の2作も短編かと思っていたら「昔話を聞かせておくれよ」と「友よ知るなかれ」が続き物なっていました。
「昔話を聞かせておくれよ」がいい感じに終わったので、読んでいて、まさかの前回の続き!?みたいな驚きがあってテンションが上がりました。
 
本作で一番面白かった話をあげよと言われたら、迷わずこの最後の2作を選ぶというくらい、最後の2作は面白かったです。
 
特に印象に残っているシーンは以下です。
 
「そんな弱みを誰が見せるか。植田を憶えているだろう。兄貴がちょっとやんちゃなだけで、あの一年生が呼び出されて横瀬になにを言われたか。そして横瀬が難癖をつけているとき、職員室で誰かひとりでも植田をかばったと思うのか。弱みってのはそんなもんだ。あのときはちょいと意地の悪いことも言ったが、俺はあいつに同情してる。弱み一つで世界は変わる。そうだな、お前には、親父の教えを一つだけ教えてやってもいい」
米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社文庫)p345
松倉は指を一本立て、囁く。
「やばいときこそ、いいシャツを着るんだ。わかるか?」
……わからない。いまの僕には。
だけど、松倉詩門がいつも自身ありげにふるまう理由は、なんとなくわかった気がした。
米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社文庫)p345
 
゛弱み一つで世界は変わる。そうだな、お前には親父の教えを一つだけ教えてやってもいい゛
 
何かの名シーン的な雰囲気のある言い回しでかっこよくて好きです。
 
他には以下のやり取りも好きです。
 
「本が絡むとデリカシーがあるな」
「本が絡まないとデリカシーがないように聞こえるぞ」
「裏は必ずしも真ならずってな。どれどれ」
米澤穂信『本と鍵の季節』(集英社文庫)p300

 

論理学の知識がうまく使われていて面白いなと思いました。

さいごに

面白かったので、著者の別の作品も読んでみたいと思いました。さしあたって、本書の解説に出てきた『小市民シリーズ』が気になってます。
あと、本作の物語の中に出てきた松本清張の推理小説「ゼロの焦点」も気になりました。
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