※ネタバレ注意
 
第19回『このミス』大賞・文庫グランプリ受賞作品の「甘美なる誘拐」(著者:平居紀一)を読み終えたので感想を書いていきます。
 

あらすじ

ヤクザ未満の冴えない若者二人組。地上げに悩まされる自動車部品店の父娘。宗教団体にガードされる少女。一体の他殺体と、謎の未発表小説原稿。
それぞれの物語が衝撃のラストでどう収束するのか、見破れ!

引用:甘美なる誘拐|文庫グランプリ|宝島社

 
一言でいうと、ヤクザの世界が舞台のミステリーです。
 

感想

読んでいて面白いと思った点は2つあります。
 
1つ目は、魅力的なキャラクターと、その掛け合いです。
 
少し話がそれますが、5月21日、22日に再放送があった古畑任三郎を見ました。
古畑任三郎という名前は聞いたことがありましたが、実際に見るのは初めてでした。
見て思ったのが、謎解きももちろん、面白いのですが、古畑任三郎シリーズのその一番の魅力は、魅力的なキャラクターと、その掛け合いにあると感じました。
古畑任三郎の解説サイトに、キャラ同士の掛け合いを見ているだけでも楽しいとありましたが、まさにその通りだと思いました。
 
「甘美なる誘拐」も同じような感じで、謎解きも面白いけど、なによりキャラクターと、その掛け合いが魅力だなと思いました。
 
作品を好きになったり、面白いと感じるのに一番大きなウエイトをしめる要素は、キャラの魅力だと個人的には思っています。
 僕はキャラが魅力的な作品が好きです。
 
キャラの描写に関して、特に気に入った部分があったので引用しておきます。
 
「てめえら、何なんだ、昨夜の客の入は!?」
怒鳴り声と同時に、硬い物が飛んできた。
ゴン、と音を立てて市岡真二の額に当たったが、床に転がったのを見ると、百円ショップで買った安物のマグカップだ。荒木田はけっして値の張る物は投げない。
引用:平居紀一『甘美なる誘拐』(宝島社) p8

 

荒木田というのは、主人公格である真二と、その相棒の悠人をこき使う、二人の親分的な人物です。

 
怒鳴って何か物を投げるというのは、おなじみですが、そこに「けっして値の張る物は投げない」という一文が加わるだけで、一気にそのキャラクターに人間味が加わるというか、何かにくめない感じが出るのが良いなと思いました。
 
もう1つの気に入った部分も引用しておきます。
 
「荒木田さんは駆け出しのころから頭の切れる人でした」
 ケンさんはまるで客に対するような口ぶりで、ぽつりと言った。荒木田は高校を中退しているが、そのあと通信制に入り直して、きちんと大学を卒業したのだという。
「へえぇ、そうやったんでっか。初めて聞きましたわ」
 悠人はさっそくお茶請けの蕎麦饅頭をぱくつきながら、目を丸くしている。そう言えば、荒木田は事務所でもよく経済新聞やビジネス誌を読んでいる。暇さえあれば株価のチャートを見ているし、実際に何でもよく物を知っていた。
引用:平居紀一『甘美なる誘拐』(宝島社)p102〜103

 

特に「そう言えば、荒木田は事務所でもよく経済新聞やビジネス誌を読んでいる。暇さえあれば株価のチャートを見ているし、実際に何でもよく物を知っていた。」という部分がそれほど多くない描写で、キャラの人となりをよく表していて良いなと思いました。

 
そういえば、今気づきましたが、気に入って引用した部分が両方とも荒木田に関する部分ですね。
自分もしかして、荒木田推しなのか!?というツッコミが一瞬頭をよぎりました。
 
面白いと思った点の2つ目は、エンターテインメント色が強いと感じた点です。
いわゆる、よくあるミステリーだと、事件が起きた後に探偵が登場して、事件を解決するみたいな流れが定番で、事件が起きているので、その事件の被害者の人とかもいて、結構悲劇な感じで、面白いけど、あまり読後感の良くないみたいな感じの作品があります。
その点、この「甘美なる誘拐」という作品は、割と爽やかな感じの終わり方で、読後感も良かったです。
 
まあ、「甘美なる誘拐」の場合は、ミステリーの中でも誘拐物というジャンルなので、よくある探偵が登場するタイプと比較するのはちょっと違うのかもですが。
 
そんな感じでエンターテイメント色が強いので、殺人とか出てくるのはちょっと怖くて苦手という人でも、楽しめそうだなと思いました。
 

さいごに

本作品は、著者である平居紀一氏のデビュー作になります。面白かったので、作者の次の作品も読んでみたいなと思いました。楽しみです。
おすすめの記事