※ネタバレ注意

コンビニ人間』を読み終えたので、感想を書きます。

一般的な普通とは少しずれた主人公の視点を通して、いわゆる普通な人達との対比がうまく描かれていて面白かったです。

本作品は、普通とは違うことを肯定するわけでもなく、否定する訳でもない。だだひたすら、淡々と、一般的な普通の人達と、それにうまく適応できない人との対比を描写する。

終わり方も決してハッピーエンドというわけではなく、読み終わったあとに、考えさせられる終わり方でした。

主人公の思考について

本作品の主人公が、小学生の時、男子二人が喧嘩をしていて騒ぎになったことがあった。「誰か止めて!」と誰かが叫んだ。
主人公は、そばにあった用具入れからスコップを取り出し、その喧嘩をしている男子の頭を殴った。男子は頭を抑えたまま動きが止まった。

確かに喧嘩を「止める」ということに関して言えば、非常に合理的で最短な行動に見えますが、そこにはどこか、倫理観や道徳的な感情が欠如していて、少し恐怖を感じました。

こういったサイコパス的な思考を持つ登場人物は、江戸川乱歩の小説を思い出しました。

共感した部分

確かにそうだなと、共感できる部分も多くありました。
例えば、本作品では繰り返し出てくる、身近にいる人達の喋り方や服装などが伝染しているという部分です。

これには自分も、思い当たる節があります。
話していてふと、あっ、今自分は、昨日喋っていた人の笑い方や喋り方を真似ているなと思ったことがあります。
他にも、twitterを見ていて、よく絡んでいる人達同士のアイコンやツイート内容、雰囲気が驚くほどそっくりだったことを思い出しました。

意識的にしろ無意識的にしろ、私達は周りから影響を受けているということは、少し怖くもあります。

私の喋り方も、誰かに伝染しているのかもしれない。こうして伝染し合いながら、私たちは人間であることを保ち続けているのだと思う。

引用:村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋)p26

もう一つ、確かにそうだなと思った部分があります。

皆、私が苦しんでいるということを前提に話をどんどん進めている。たとえ本当にそうだとしても、皆が言うようなわかりやすい形の苦悩とは限らないのに、誰もそこまで考えようとはしない。そのほうが自分たちにとってわかりやすいからそういうことにしたい、と言われている気がした。

引用:村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋)p37

 子供の頃スコップで男子生徒を殴ったときも、「きっと家に問題があるんだ」と根拠のない憶測で家族を責める大人ばかりだった。私が、虐待児だとしたら理由が理解できて安心するから、そうに違いない、さっさとそれを認めろ、と言わんばかりだった。
 迷惑だなあ、何でそんなに安心したいんだろうと思いながら

引用:村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋)p37

人は理解不能なものに出会った時、それに自分が理解しやすく、わかりやすい理由を勝手につけて、安心しようとする。といった感じでしょうか。

確かに、こういう時があるかもしれないと妙に説得力を感じました。

コミカルなシーンも出てくる

本作品には、主人公の他にもう一人、メインとなる登場人物が出てきます。
白羽という男性なのですが、登場シーンの描写が面白く、思わず吹いてしまいました。

私が声をかけると、白羽さんが薄く笑った。
「はあ、わからないこと? コンビニのバイトで、ですか?」
白羽さんは鼻で笑い、笑った拍子に鼻がプーという音を出し、鼻水が鼻の穴に膜を作っているのが見えた。

引用:村田沙耶香コンビニ人間』(文藝春秋)p46

「笑った拍子に〜」の部分です。

一見して、タイトルや帯からは、社会派で硬派な印象を受けますが、ところどころにこういったユーモラスな描写や、コミカルなシーンがあるのも良かったです。

まとめ

本作品は、描写のところどころに妙なリアルさがあり、難解な言い回しも出てくるので、繰り返し読むことで、また新たな発見がありそうだなと思いました。

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